第二章 小窓尾根

川田はザックの天蓋のポケットから二万五千分の一地図を取り出し、油性ペンでマーキングしてある登攀路をなぞった。この小尾根を乗越すと、再び白萩川に急降下し、おおよそ池ノ谷との出合付近に出る。そこから再び白萩川沿いに一キロメートル程度登ると、小窓尾根の取りつき、雷岩に達する。

地図上で取りつきから小窓尾根下部を見ると、等高線が非常に接近し、雪壁を形成していることが見て取れる。その先をなぞると、確かに一,四〇〇メートル近辺に等高線の緩くなった小広い地形が確認できた。

おそらく小窓尾根に突っ込んだとしたら、この一,四〇〇メートル付近まではテントを張れる箇所はないだろう。鬼島の判断のとおり、一気に一,四〇〇メートルまで上がるか、それとも雷岩でテントを張るか、どちらかだ。

「さて、行こうか」という鬼島の言葉に促され、川田はザックから腰を上げた。広げた地図や行動食をしまい、一週間分の食料が入った重いザックを持ち上げ、背負った。

最近は山用の食料も、フリーズドライ加工の食品類により格段に軽量化され、一週間分の食料を揃えても一人で背負える程度の重さにしかならないから、少人数でも無理なく長期間の山行ができるようになった。