俳句・短歌 四季 歌集 2020.08.17 歌集「旅のしらべ・四季を詠う」より三首 歌集 旅のしらべ 四季を詠う 【第5回】 松下 正樹 季節に誘われ土地を巡る尊きいのちを三十一字に込める 最北の地で懸命に生きるウトウ、渚を目指していっせいに駆ける子亀……曇りなき目で見つめたいのちの輝きを綴る短歌集を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 咲きみつる花に抱かれほしいまま さへづる小鳥に聞き惚れてゐる 岸辺より枝かたむけてしらじらと 水面に花の影はたゆたふ 花さそふ風に梢の桜花 日も夜もあらず空に散りゆく
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『ヴァネッサの伝言』 【第35回】 中條 てい 「あの者が今日から行方不明になりました」イダの顔がはっとこわばった。「お前、まさか……」 イダの庵がそこから近かったのと、あそこの戸口がいつも施錠されていないことを彼は知っていたからだ。イダはまだ火の傍に置いた背もたれ椅子で眠っていたが、気配に驚いてびくっと飛び起きた。「申し訳ありません、イダ様。まだお休みのところを起こしてしまいましたね」シルヴィア・ガブリエルがすまなさそうに小声で謝ると、イダは目をこすりながら、「何じゃお前か! 人聞きの悪いことを言うな、儂はもう夜明け前には起きて…