【前回の記事を読む】息子の嫁が経営に口を出してくる。商売への意欲は失われ、昼から酒を飲んでいた——すると、軽蔑した目つきで……
人生を失い、それでも女は這い上がれるか
昌子
入院生活も半ばを過ぎると、家族がいて飲酒の危険の少ない患者は、毎週末の帰宅が許される。金曜日の夕方病院を出て、日曜日の夕方までに帰ってくればよい。
家族に会いたいだろうという気遣いであり、退院後の生活を見通しての地ならしの意味もあった。恵子より入院が早かった昌子は、すでに週末、外泊して家に帰っていた。
「まあ、気恥ずかしい気持ちもわかるけど、家族も心配してるでしょ? 退院したらどうなるかって不安だと思うよ。お酒を飲んでいたときの気持ちをなるべく正直に話して、家族の考えも聞いた方がいいんじゃない?」と、恵子は昌子の背中を押した。
蓋を開けてみれば、昌子が切り出す前に家族の方から退院後の生活について話し合おうといい出してきたそうだ。入院前と同じ生活に戻ったのでは、再飲酒は時間の問題だと考えたのだろう。
昌子のいないときに三人で話もしていたようだ。とくに弥生は、自分がこの家に入ってから昌子の酒への依存が始まった事実を重く受け止め、昌子の本心を聞いて対応したいと考えていたらしい。
アルコール依存症の本も何冊か読んで勉強してもいた。昌子が話しやすい状態ができていた。昌子は、なんでもはっきり口に出す性格なのに、案外、胸の奥の思いは家族に話せていなかったのかもしれない。昌子は、言葉を選び選び、自分の気持ちを語ったそうだ。
「一番辛かったのは、ひとりで暮らしてるおばあさん、おじいさんのところに明日になれば賞味期限切れで売り物にならなくなっちゃう品を配れなくなったこと。どうしてるかな、無事でいるかな……って心配にもなったし……。
それに昔からの知り合いだから、行けば、世間話や思い出話もできるでしょ。半分はそれが楽しみだったのかも。なんか、あれができなくなって、張り合いがなくなっちゃったような気がするのよねぇ」
これに弥生が反応したという。
「お義母さん、ごめんなさいね。私、なんでもパキパキ考える方で、ただで配ったら、お客を減らすだけじゃないかって思っちゃって。だけど、ずっとお義母さんがやってきたことを簡単に切り捨てたのは私が乱暴でした。本当にごめんなさい」
というわけで、ひとり暮らしの高齢者への品配りは復活することに。ただし、残ることの多い品は仕入れを減らすことになり、以前ほどの量にはならないだろうと思われた。
話し合いの場で、一番、頼りなかったのは長男だそうだ。仕事で会議も多いから、この手の話し合いに最も慣れていそうなのに、家にいる時間が短いこともあり、どこか他人事のような態度で、昌子はがっかりしたという。