【前回の記事を読む】依存が進み生活が破綻する頃には、1度に大量に飲むと吐いてしまう。だからすするように少しずつ飲み、やがて…

人生を失い、それでも女は這い上がれるか

昌子

一番の年長は、五十八歳の昌子。

東京の下町で夫と和菓子店を営んでいる。若いころから酒好きだった。毎晩の晩酌。だが、度を越して飲むようなことはなかった。夫婦で日本酒二合とっくりを二本、夫の方が多めに空けるのが常だった。

朝から飲むようになったきっかけは長男の結婚である。同居。長男は会社勤め。妻の弥生はそれまでのアルバイトを辞めて店を手伝うようになった。昌子はチャキチャキした性格で、なんでもはっきりいう。

家事の分担はうまいこと話し合った。意見が分かれたのは店の経営方針である。和菓子の需要は下降の一途。昌子の店でも、店先のワゴンにおせんべいやかりんとうなどを置いて、少しでも収入を増やそうとはしていた。

弥生はスーパーでアルバイトをしていた経験から、売れ筋の食品を知っている。彼女は、カップ麺やスナック菓子を扱うことを提案した。昌子は気に入らなかった。体に悪いからと自分の子どもたちにもあまり食べさせないようにしてきた品々である。

大きな抵抗があった。が、夫も長男も弥生についた。とにかく、このままでは店を閉めるしかないところまできていたので、藁にもすがる思いだったのだ。結局、店先に大きなワゴンが運び込まれ、そうした食品が並んだ。

もう一つ、弥生の攻撃の対象となったのが、その日が賞味期限の売れ残りの品の処理の仕方である。

昌子は、夜七時に店を閉じると、これらを近所のひとり暮らしの高齢者に配って歩いていた。多い日もあれば、まったくない日もある。が、和菓子需要が落ちてくるのと並行して、残る量も増えてきていた。

結局、二日に一度は、四つ、五つに分けて包んだ和菓子を配っている状態だった。「配らなければ買いに来てくれるかもしれないのに、お客さんを減らしているようなもの」だと弥生はいった。そういわれれば否定はできない。

だが、昌子は町の商店というのは、そういう風に商売するものだと思っていた。先代からの教えでもあったし、世話焼きの昌子の性分でもあった。

弥生は、口数は多い方ではないが、合理的な考えをシラッと実行する。昌子が残りものを分け包む前に処分してしまうのである。「あんた、何すんのよ!」。昌子は抗議した。弥生はその場では、「あら、ごめんなさい。片づけちゃった」というが、翌日も同じことをする。

夫と長男は二人にかかわろうとしなかった。