昌子は商売への意欲をなくしていった。だいたい小さな店に大人三人はいらない。昌子が店に顔を出さないことが増えた。茶の間でテレビを見るが、なんとも手持ち無沙汰で、お酒に手を出した。

最初は昼間はコップ一杯と決めたものの、アッという間に量が増え、昌子は昼からヘベレケになるようになった。

気の弱い夫は、小声で「体によくないよ」というだけ。弥生は軽蔑した目つきで一瞥するだけであった。そんな風にして一年近く過ぎると、昌子は家事もせず、飲んだくれているようになる。

さすがに夫が心配して、近所の内科医に相談に行った。そこで総合病院の精神科を紹介され、嫌がる昌子をどうにかこうにか説得して受診。千里浜につながったのである。

恵子は昌子と気が合った。入浴は二人ずつなので、毎日、一緒に入った。湯船につかりながら、話した。「ここ出たら、飲まないでやっていけるかねぇ?」、

昌子が聞く。「わかんない。正直、あれだけお酒に執着してたからね。だけど止めないと人生台無しでしょ?」、恵子が答える。「そうだよね、そう、お酒より人生が大事。それこそ、それが大事!」と昌子がおどけていうので二人して笑った。

笑ったけれど、二人とも心の中は不安でいっぱいだった。昌子は、家の茶の間に一人でいる自分を思い浮かべると、その傍らに一升瓶がイメージされてしまうのだという。断酒は本人の意志が一番だが、どのように飲まずにいられるかという環境を整えることも重要だ。恵子は昌子にいった。

「外泊のときによく家族と話し合ってみたら?」

「そうねえ、だけど、家族で話し合うって、そういうことしたことないから、なんだか気恥ずかしくてね」、昌子は答えた。

 

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