事が大きく面倒なことになりそうな気がするので、甲野の真意が知りたかった。

「え、それは、松岡さんが陰のトラブルシューターだとうわさに聞いたからなんですが……」

真顔で言っている甲野は、捨てられた子犬のような目をしていた。

(くーんくーん)と言いそうな口もしている。

「何だそのうわさは? 甲野、真に受けたらいかんよ。誰が言ってるんだろうね。困ったもんだ」

実際、変なうわさが流れたら今でさえうだつが上がらない俺は、窓際どころじゃない、壁際に追いやられてしまう可能性が出てくる。社内では静かにしているのが一番なのだ。神仙老人のように存在感を消したいぐらいに思っている。

「えへへ、そのうわさ、甲野さんに直接話したのは私なの」

聞き覚えのある竹村の突然の声に反射反応で振り向いた。微笑んで立っている竹村を見てなぜかがっくりした。竹村に完全にリードされていた山沖の時のことを思い出していた。

(厄介なものをもう一つ背負いそうだ)

両肩がガクンガクンと落ちて力が抜けた気がする。

「大丈夫よ、甲野さん。松岡さんに頼めば何とか解決してくれるわよ。安心、安心」

(何が安心、安心だ)

竹村の無邪気に笑う姿を見ながら、気安く言うなと思っていた。

「そうですか。引き受けてくれますか。うれしいです。じゃ、詳しいことはまた後で」

甲野は独り決めすると、笑みを取りもどした顔で小走りで営業五課に帰っていった。

  

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