第1章 まず知ってほしいこと ~患者さんの疑問に答える~
標準治療より良い治療はないんですか?
やはり標準治療が安心
【腫瘍内科医のつぶやき】なぜ私たちではなく、あなたが
神谷美恵子さん。1935年に津田英学塾(現在の津田塾大学)卒業、その後コロンビア大学に留学。そこで医師を目指しますが、戦争のため帰国して東京女子医専(現在の東京女子医科大学)卒業。精神科医となり、長島愛生園で精神的疾患に苦しむハンセン病患者の診療に打ち込んだ方です。
第二次世界大戦後に極めて有効な治療薬が標準治療になってからのことです。それでもその頃、まだまだこの病で苦しむ患者さんは多かったのです。彼女は患者さんに語りかけます。
「なぜ私たちではなくてあなたが? あなたは代わってくださったのだ」注1)
彼女は洗礼こそ受けませんでしたが、この呼びかけは、キリスト者のキリストに対する問いかけに聞こえます。患者さんにとって、この問いかけも、最初は、「なぜ、私がこの病気にならなければならなかったのでしょうか?」だったのかもしれません。
3 私に残された時間はどのくらいですか?
平均余命よりも、半分の人は長く生きる
よく医療ドラマで見られる一場面があります。がん患者さんが主治医に「あとどれだけ生きられるんですか?」と聞いて、医師が「あなたのがんは進行しているから、平均余命は○○カ月です」と答える、あれです。「平均余命」という言葉はどういう意味でしょうか。
「平均余命」は、いわゆる「平均値」ではない
平均余命と似ている言葉に「全生存期間」があります。全生存期間とは、臨床試験において治療法の「割り付け開始日」(治療法の決定日)もしくは治療開始日から患者さんが亡くなるまでの期間のことを示します。
全生存期間は長い患者さんも短い患者さんもいます。イメージとしては、患者さんに全生存期間の短い順に整列してもらい、真ん中の患者さんの全生存期間を「生存期間中央値」と定義します。