それ以後二十三年間、ユリアは死んだものと諦めて過ごした。シルヴィア・ガブリエルの出現で村の存在が明るみになり、そこでユリアが生きていたと知ったのは、まだついこの間のことではないか。
「オージェに発たせた時には、再び会うことがなくとも、そこでファラーとともに息災に暮らすのであればと、今生(こんじょう)の別れを覚悟したものを……だが、なぜ二度までも失わねばならぬ! あの男、知らせになど来ずにいっそ黙っておってくれたなら……」
カザルスは顔を覆ったまま独り言のように呟いたが、はっと気づいて顔を上げると、ラフィールに不憫な目を向けた。
「じゃが、そなたにはそうもいかぬな。許せよ」
ラフィールがオージェのファラーたちのもとを離れて、まだ一年にも満たない。村人たちと別れたあとの三年間を、ラフィールは両親とともにオージェで送ることができた。
村の生活では味わえなかった親子としての暮らしを経験し、気恥ずかしくも湧き上がるような喜びを知った。
両親のもとを発つ時は、カザルスが漏らしたのと同じように、長いご無沙汰になることを承知していた。
こちらに来てからは、毎日経験する様々なことに胸が躍って、この数か月は両親を振り返ることすらしてこなかった。
いったい何が起こっているのだ。
思えばはっきりと両親の顔が浮かぶ。急な吹雪に帰り道を見失いそうになって心細かった時、心配して途中まで迎えに来てくれたファラーに出会った。
夢中で抱きついたあの姿は頼もしかった。家に戻れば、まあ冷たい手と言って、ユリアが両手に挟んで温めてくれた。その優しい笑顔はいつでも脳裏に浮かんでくる。
「一緒に命を落とすとは、深い絆じゃ。どちらか一方が失われるのであれば、それこそ酷(むご)いことであったかもしれぬな」
ラフィールのみならず自分をも慰めるために、カザルスはぽつりとそう呟いた。