「張軌殿は禁軍を預かる身、このままでは戦の度に多くの兵士を失うのですぞ、城があれば急襲にあっても兵を損なうことなく守りを固め、攻め入る際の足場にも補給庫にもなるのですぞ」

「確かに城があれば……」

「軍を預かる立場ならば、城の必要性は充分解るはず、中央の観軍容使に張軌殿から口添え願います」

「えっ……は、はい」

「儂は天子様に直接、城の必要性を上申する。戦場が耕地となって実れば税収も上がり、城の建築費用など直ぐに取り戻せます……」

俯いて李徳裕の言葉を聞き流していた張軌が、無言の時間が続く不自然な静けさに目を上げると、皆の目が集まり反応を見守られているのに気付いた。

「閣下のお考えの通りかと思われます」と、慌てた張軌は従順さを装う笑顔で答えた。

当初、吐蕃との国境には城を一つ造って防備を固める予定だったが、李徳裕の強い進言により、地理的に要となる二か所に城を造り、禁軍を常駐させて守りを固めるよう変更がなされた。

その結果、吐藩側の国境守備の先兵に位置付けられていた武将悉怛謀(しつたつぼう)が絶えることのない唐禁軍の重圧に耐えかね、活路を求めて蜀の都、成都へ李徳裕を訪ね帰順してきた。

李徳裕は悉怛謀を手厚く迎え入れ、「今、維州を統治下に置けば、蜀の防備は固くなり、吐蕃との国境に楔を打ち込むことができます」と、助言を添え、悉怛謀の裁定を中央政府に委ねた。

 

 

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