第二章 中学野球編
父が完全に尻にしかれているのが子供心にも分かっていた。将を射んとする者はまず馬を射よ。口説くなら母だ。それも、父が同席している場なら、味方になってくれるに違いない。
「あら、どうしたの。妙に改まって。お小遣いの値上げなら、そう簡単にはいかないわよ」
「まぁ母さん、太郎が相談っていうんだ。ちゃんと聞いてやろうよ」
「実はさ、僕、M大学の野球部に進みたいと思っているんだ。今の成績じゃとても無理だと思うけど、一生懸命勉強する。奨学金だってある。野球部に入ってしまったらとてもアルバイトは出来ないと思うけど、僕なりに出来ることはする。だから、お願いだ。僕を私立大学に行かせてください」
母はにっこりと笑った。自称凄腕の生保レディーが胸を張ってこう言った。
「あら、あの勉強嫌いの太郎がこんなことを言うなんて、明日は雪でも降るんじゃないかしら。いいわ、お母さん、とっても嬉しい。生命保険のお仕事頑張って、太郎の学費くらいは稼いであげる」
父も賛成してくれた。
「お父さんは県立高校から頑張って国立大学、浪人してしまったけどなんとか入学して卒業した。公務員試験だって一生懸命勉強したぞ。お母さんだって、けっこういけている女子大を卒業しているんだ。大丈夫、太郎は僕らの子供なんだから、絶対にやれば出来るよ」
「有難う、お父さん、お母さん」