「それ、本当に、聞く?」
思わず視線が宙へ逃げた。額に汗して書いている物語の結末を、今ここで語らせるのはあまりに無粋だ。
「悪かった。今のは聞かなかったことに……」
「結末は、まだ決めてない。実は、迷ってる」
ただでさえ聞き取りづらい声が、口の中で余計にくぐもった。どんな結末にするべきか、よほど悩んでいるのだろう。
「それなら気長に待ってるよ」
すると彼女は、ぱっと顔色を変えて少し前のめりになった。
「結末、気になる? 読んでみたいと思う?」
予想外の反応に面食らいつつも、こくこくと頷いてみせる。途端に彼女の背中から、気迫のようなものが立ち上り始めた。たった一人の期待が、彼女のやる気にこれほど大きな火をつけたということか。
バッグから手帳を取り出した彼女は、そこに手早く文字を書きつけた。書き終えるとそのページを丁寧に切り取り、四つ折りにしてぶっきらぼうに差し出す。
「書き上がったら、連絡する。連絡先教えて。私のはこれ」
成り行きとはいえ、連絡先を書かされることになるとは。こちらが強引に声をかけたはずが、今や主導権はすっかり彼女に移っている。
この打ち解けた雰囲気。今なら冗談で済むかもしれない。手帳に連絡先を書きながら、さりげなく呟いてみた。
「ところでさ、スリーサイズいくつ?」
しばらく待ってみるが、反応はない。
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