そして警察の取り調べとやらが始まるのだ。立入禁止と札の下がったロープが張られ、ああでもないこうでもないと言い合って騒ぐのだろう。

『謎の白骨死体松本市奈川の山中で発見』 と新聞に載ってちょっと世間を騒がす。身元確認が始まっていよいよ謎が増す。自殺か他殺かの議論が起こり、綿密な聞きこみ調査が始まるのだ。まるで目の前にその光景が見えるかのようだった。

こうしたことはテレビドラマで見ていたから、手に取るように判った。でも身元を明かすようなものは何一つないのだから、ついにはあの粘土による復顔ということになるはずだ。

骸骨は松の幹に身を寄せてあらぬ空想に耽っていた。そこへカサッと音がして人の姿が現れたが、それに気づく様子もなかった。背後に現われた人はそのまま立ち竦んだ。

骸骨が知っているのは、頭蓋骨を机の上に置いて、法医学教授とやらが思案顔で粘土を貼りつけていく様子だ。現在では相当に技術が進み、骨格や歯型等からかなり精密な再現が可能なのだという。

そんなに素晴らしい技術があるのなら、そのまま椅子に座らせてもらって全身の復元をお願いしたかった。でもそこまでやる話は聞いたことがないから顔だけで我慢するしかないのだろう。

机の上に置かれた頭蓋骨にコテコテと粘土を貼りつけていく様子が目に浮かんだ。首だけ外されるのはギロチンみたいで嫌だなと思った。もしかすると大仰な悲鳴を上げるかも知れない。

「イヤ待てよ‥‥」

思わずそう呟いた。場合によってはその先生に全身の復元を直訴するのはどうだろう。

「イヤ‥‥駄目だ」と今度は溜め息をついた。

その老教授は、と勝手に決めつけていたのだが、「きやっ」とか「ひゃあ」とか言って腰を抜かすんじゃないだろうか。それでは気の毒だった。

仮に老教授に腰を抜かさないでやってもらうとして、身元不明死体でも何でもないのに復元してもらえるのだろうか。そこに至って腕を組んで考えこんでしまった。ひと声唸ると白骨の指で頭蓋をポリポリ掻き始めたのである。

物陰の人はまじまじと目を見開いていた。口元を手で覆って、もしかすると悲鳴を堪えていたのかも知れない。

【前回の記事を読む】白々と哀れむような、何かを咎めるような乗客の目差し。どうしたのだろう、急にどうしたというのだろう。

次回更新は12月20日(金)、11時の予定です。

 

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