男は自身もそれほど年を取ってはいない容姿だったけれども、自分より十五は年の若い青年をからかうように笑った。
「分からないかね」
彼は弱りきって赤面し、再び項垂(うなだ)れた。「分かればいいのですが。私は何分まだ若く、知恵も直観も備わっていないのです。もし失礼でなければ、せめて何処からいらしたのかお教えください」
「私は過去から来たのではない。だが、お前の先祖は私と深い関わりがあり、私は今最も彼らに近づいている」
そんなナゾナゾみたいなことを言われてもますます訳が分からなくなるだけだと思ったが、彼は部族に伝わる礼節の教えに従い、何も言わず黙してその続きを待った。男は彼を待たせたまましばらく黙って、やがて静かに、
「私はお前だ」
と言った。なんと答えていいのか分からなかった。自分よりも遥かに大人に見えるこの男が自分自身なら、目上の人間に対するように恭しく接する必要はなく、目を合わせて顔をじろじろ見つめてもいい相手になるはずだが、彼はどうしても、彼自身だと名乗る男の顔を覗き込む気にはなれなかった。
「お前は、年若い自分にはまだ知恵も直観も備わっていないと言ったが、心配するな。最後の時になっても深淵な叡智や神秘的な直観など備えてはおらず、あるのはただ常識(コモンセンス)だけだ。だが、それでいい。それでいいのだよ」
なぜだか分からないけれど、男が最後の時と言うと、彼の身体は急に倒れそうなほどの疲労を感じるのだった。名状し難い摂理が働き、彼の意思とは関係なしに身体の力が抜けていくようで。
「今は、眠るといい」