「それはそうじゃが……余計なお世話と言われればそれまででございますが、こんな立派なご嫡男をそろそろ呼び戻さねばもったいないよのお。どうしてシャン・ド・リオンのためになどさせておくかと思いましてな」
シャン・ド・リオンのため……か。先ほどジェロームは父に進言した。
アンリがエルンストに近づくのは必至だから、あまり結びつきを深めない先に、姉上からもよく言い含めて、我らの縁戚(えんせき)関係をくれぐれも蔑(ないがし)ろにすることのないようエルンストには念を押しましょうと。
だが、父からはゴルティエの葬儀の場でそのようなことを口にするなと一喝された。
子どもでもあるまいに、それが非礼なことぐらい承知しておるわ! 承知した上で先手を打たねばならぬから申し上げたものを……。ジェロームに先刻の悔しさがまた込み上げてきた。
馬の背に横乗りしたイヨロンドは、体ごとずっとこちらを向いてジェロームの様子を窺っている。
目を見た人間を石にしてしまう怪物というわけでもないが、それに目を合わすまいと、ジェロームは前を向いたまま黙って馬を進めた。
「カザルス様のお傍には、いつもあの切れ者のバルタザール・デバロックがおりますゆえ、あのお方もお心強いのでございましょうが、ご子息を差し置いて家臣ばかり重用(ちょうよう)致しますのもなあ」
イヨロンドは不満そうに顔をしかめた。
【前回の記事を読む】「これからはシャン・ド・リオンの動きに十分注意しておけ。そろそろあの獅子が目を覚ますかもしれぬぞ」
次回更新は12月8日(日)、18時の予定です。
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