二人の御遊技に周囲の客もおもしろがり始めて、同じようなことを始めた。すると監視員がやって来て、「あなた方の始めた行為はどうやら一般の方にまで広がり、いまではみなぞっこんとなっている具合です。これから上司に掛け合い、水死体大会を開こうと存じ上げますが、ご参加願いますか?」と微笑みかけた。

それからとんとん拍子で会は催され、スズキ青年や友人を筆頭に、参加者も多数だった。主催者側は演台とラウド・スピーカーを用意し、参加者にゼッケンを渡した。

観衆は口々に、「死んでしまえ!」「魚のエサになれ!」とはやしたてた。スズキ青年はその観衆を眺め、みな社会人としてはまじめで努力家ばかりなのだが、この時代はストレスが高じ、心の中に強い鬱憤(うっぷん)を抱いているのだな、と思った。

主催者代表がラウド・スピーカーを手に「それでは水死体大会をこれより始めたく思います。この箱船では人の一生はそれぞれの手に任され、運をつかんで社会的上昇を勝ち取る者もいれば地の利を生かして実直に泥をつかむ者もいます。

今回は水をつかんで水死体となり、あえなく果てる人生ですが、それもまた一興です。おもしろおかしくこの短い余生を送り、他者の不幸に侮辱を与える一つの機会として会を催したく存じ上げます。開催の辞でありました」と高らかに開会宣言をした。

参加者はみな、並々ならぬ水死体候補だった。その中でも特に、スズキ青年に異様な、ライバル心というより敵意をもった青年がいた。細面でメガネをし、戦うオオカミのような闘争心をこちらに向けていた。

受けて立とう! スズキ青年はにらみ返した。

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