「自殺者のようだ」

「なぜ自殺なのに治安部隊が?」

隣客は友人の顔をまじまじと観察すると、「なぜって、そりゃ……死者の霊が今生をさまよい、祟りをなすことのないように、さ」と言った。

友人は問答を止め、スズキ青年に「誘ったのは僕だけど、急に気分が悪くなってきた」と消え入るような声で言った。

スズキ青年はこうした事故や事件に直面するのは初めてだった。治安部隊の隊員が水死体を陸地へ運び上げ、防水シートに包み担架で運ぶさまを眺めて見世物を観ている気分になった。

「証人を残さないつもりなんだ……」友人が深刻そうにつぶやいた。

帰りの列車で友人は、「こんな場所でこんなことを言うのは場違いなんだけど……僕は市民の親の元に生まれて大学へ行ったのだけど、人生がうまくゆかなくてああした人の死に直面すると弱いんだ」と暗い顔をして言った。

スズキ青年は勇気づけてやらなければならないな、と思った。

「それはやっぱり死者の霊が君の弱気に取り憑いて、君もろとも水底へ引きずり込もうとしているんだ。でもそれは君の気の迷いだから、これから市営プールへ行って一泳ぎし、気分を晴らしてやろうよ」

君の冗談は強烈だね、と友人は弱々しく笑った。それでも仕事として契約者側の所望を聞き入れなければならないため、スズキ青年と友人は自宅へ戻るととって返して市営プールへ出かけた。

巨大な建築物の市営プールは、室内に入場すると強い薬剤のにおいがした。プールは三メートルもの深さがあり、自由遊泳でみな水浴びをしていた。

スズキ青年はプールに飛び込み、水死体ごっこを始めた。まず初めに水中でじたばたと暴れ、次にできる限り肺の中から空気を絞り出し、酸素欠乏のままどれだけ耐えられるのかを競うのである。やってみるとやりがいが出てくるのが人情で、気の進まなかった友人にやらせてみると、スズキ青年よりも上手なのである。