「じゃーん、久しぶり、海智。驚いた?」
看護師はおどけた笑顔でそう言った。
「お、お前、一夏(いちか)か」
「久しぶりね、海智。元気だった?」
入院患者に対して元気だったかもないだろう。
「どう、私のナース姿は。似合うでしょ」
まるでファッションショーのモデルみたいに海智の目の前で一夏はクルクルと回転して見せた。
「お前、この病院のナースになったのか」
「そうよ。もう四年目よ。ところで病気の方はどう? あれからずっと続いていたのね」
まずそれが第一声であってほしかったと海智は内心思った。だが、気が置けないのが彼女の取り得であることは昔から知っていた。
石破(いしば)一夏とは高校の剣道部で一緒だった。海智は小学生の頃から習っていたくせにお世辞にも上手い方とは言えず、二年まで試合にも出してもらえなかった。
一方、高校になってから初めて剣道を始めたという彼女はめきめきと腕を上げ、二年の時は女子の主将になって、遂には県大会で優勝してしまった。練習で男女で立合いをすることもあったが、彼女と当たると海智は勝てたと思った試しがなかった。
身長は百六十センチ程度だが、肩幅は女子にしてはややがっしりしていて、何と言っても動きが俊敏なのだ。よく彼女から「海智は亀だね」と言ってからかわれていた。弱いくせに負けず嫌いの海智ならコンプレックスの塊になって口も利いてやるもんかと臍を曲げてもよさそうなものだが、この愛嬌のある笑顔で言われるとどうしても憎めない。
別に美人というわけではない。目も鼻も口もやや大きすぎる感じで、「俺が亀でもお前は兎じゃない、狸だ」と言い返してやったくらいである。だが、この屈託のない性格のためか、高校では男子からも女子からも人気があった。海智も彼女と話をしているといつの間にか快然たる心地になる。彼女にはそういう不思議な魅力があった。