眠れる森の復讐鬼

海智があれこれと思い悩むうちにもう十八時になり、再び配膳の時刻がやってきた。今度桃加がやってきたら色々と問い質してやろうと決意して待ち構えていたが、今度は別の看護助手がやってきて肩透かしを食った。入院中にはまた顔を合わす機会があるだろう。その時には今までの思いを全てぶつけてやろうと彼は独り息巻きながら夕食を済ました。

病院の食事はとても食えたものではない。特に彼は直方体のハンバーグには驚いた。

(きっと機械で作っているんだろう。経費削減の一環だろうが、囚人だってもうちょっといいものを食ってるに違いない。高い入院費用を払っている患者を馬鹿にしている)

勿論味が良ければ形にそう文句をつける程彼は一言居士ではないが、味も見た目に比例していた。調理場を開放してさえくれれば自分で美味しい食事を作れる入院患者はいっぱいいるだろうに。

食事を済ますと海智はスマホで執筆中のミステリーの続きを書き始めた。執筆中と言ってもまだ数頁しか書いていない。この段階では実は構成も犯人もトリックも全く決まっていない。ただ女子高生が殺されて、その父親である刑事が犯人を捜していくことだけが決まっている。書いているうちに何となく形になるんじゃないかと彼は呑気に思っていた。

しかし、PCで書かないとなかなか小説の雰囲気は出ないものだ。何故スマホはよくて、PCは駄目なのか彼には全く理解できないが、この暇な時間を無駄にするわけにもいかない。今狙っているミステリー文学賞の応募締め切りが十二月だ。それまでに処女作を書き上げてやろうと彼は思っていた。

筆が乗り始めたなと思っているところに、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。「はい、どうぞ」と返事をすると勢いよくドアが開いて白衣を着た若い看護師が突然幅跳びの要領で飛び込んできて手足を広げながら着地した。彼女のお腹の辺りが海智の顔面にもう少しでぶつかりそうになったので、彼は思わずわっと叫んで仰け反った。