第一章 夢はいつか海外で

下見を兼ねたマレーシア旅行

当時、勤務していた会社では五歳ごとに連続五日間の連続休暇を取得できるライフサイクル休暇という制度があり、土・日を使えば九連休を取ることができた。

二〇〇八年一月、五十五歳、最後のライフサイクル休暇の旅先に選んだのは、将来の海外生活の最有力候補地、マレーシアであった。将来、住む時の下見と将来の仕事のアイデアを探る目的で、クアラルンプールを中心に、第二の都市で家族とも旅行したことのあるペナン島、第三の都市、イポーも訪問することにした。

クアラルンプールでは、ブキッ・ビンタン周辺の華やかな高級ショッピングエリア、ペトロナス・ツインタワー周辺の整然とした無国籍空間の広がるオフィス街、古いビルに漢字が並び雑然として生活感溢れる中華街、ほとんどがマレー系住民の庶民的なチョウキット地区などを訪れた。

今回のマレーシア旅行について航空会社に勤務している高校時代の友人に話したところ、その航空会社を早期退職してクアラルンプールに住んでいる日本人会の事務局長に連絡を取ってくれた。

今回の旅行中、彼を訪問し、マレーシアに関する本や資料を購入し、実際の生活事情をお訊きした。彼からは「思いついたらその勢いに乗った方が良いと思う」と言われたが、確かにもたもたしていると何もせずに人生を終えるような気がした。

クアラルンプール中央駅の地下ホームから寝台急行ランカウイの個室寝台に乗車してペナンに向かった。十六年ぶりに訪れたジョージ・タウンの海岸沿いには白亜の高層コンドミニアムが建ち並び、大通りの主役はバイクから乗用車になり、街はずいぶん静かになっていた。

そのあと、イポー、クアル・カンサーを回ってクアラルンプールに戻った。イポーは美しいコロニアル風の白い建物が整然と建ち並んでいる旧市街と中華風の建物が多く活気ある新市街に分かれている。イポーから路線バスで訪れたクアル・カンサーは、ペラ川沿いの道の両側に原色の花があちこちに咲いていて、夢の世界に迷い込んだように美しかった。

マレーシアは多彩な表情を持っていながら、思っていたより静かで洗練されており、楽しいセカンドライフを送れそうである。しかし、現地で就職する方法もわからないし、起業する場合も現地の人脈も皆無である。急いで今後の作戦を考えなければならないが、何から始めたら良いか全く見当がつかない。