ボールペンを使って字を書いたり、ものをつまんで食べたり、箸を使ったり、ハサミで紙を切ったり、ハンマーでたたいたり、卵を割ったり、リンゴの皮を包丁でむいたり、タオルを畳んだり、本の1ページをつまんでめくったり、コップに水を入れたり、湯呑で飲んだり、汁をよそったり、お椀を持ったり、包丁で大根を切ったり、ワインの栓を抜いたり、瓶の蓋をねじり取ったり、蛇口をひねったり……。
なんと無数の仕事をこなせる優れものであることか!
これら動作の種類の豊かさに比べ、ヒトがコンピュータを操作する際は、「押す」(クリック、キータイプ、タップなど)と、その変形の「こすり」(マウスホイールのスクロール、スワイプなど)しか使っていない。つまり、現在のコンピュータ・インターフェイスは、ヒト生体の能力のごく一部しか利用していない。
指差し行動
指は、赤ちゃんも利用する、基本的なコミュニケーション手段である。
⃝幼児は、まだ言葉になっていない喃語(なんご)をしゃべる時期に、一人指差しが見られる。一人指差しでは、自分の興味ある対象を、自分以外の対象として意識している。
⃝その後、1語文をしゃべり始める時期には、他者を意識した伝達的指差しを行うという。伝達的指差しでは、対象と他者と自己という三者の関係が認知されている。また、他者と興味を共有するという社会的な関係を持っていることを示す[宮津寿美香.(2018).「発達に伴う『指さし行動』の質的変化」保育学研究.第56巻第2号.]。
赤ちゃんだけでなく、ペットの犬も、ヒトの指差しの意味を理解する。一方、指差しを行って対象と他者と自己という三者の関係をコミュニケートするのは、霊長類にはなくヒトの特徴だそうである[米満弘之. (1973). 指の機能. 精密機械、40巻1号. 参照先:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe1933/40/468/40_468_18/_pdf ]。
従来のコンピュータは、この原初的なコミュニケーション手段に対しても、無関心だった。
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