何か思案していたか、二人が傍へ寄るとふっと我に返り、おお、どうであったという顔を向けてきた。
「エトルリアを頂戴することになりました」
察して答えたバルタザールの顔がどこか得意げだ。
「なるほど、あの馬か! 本来はアンブロワのシャルルに返すべき馬だが、もう三年以上もここで飼い葉を食わせてやっておるのだから、まあよかろう。今度会うたら言うておくわ。そなたが乗るというのであれば、シャルルも文句あるまい」
カザルスは承知したと頷いた。バルタザールは、ちょっとあちらで待てとラフィールを戸口へやると、自分はカザルスの傍に膝を折って屈み、その耳元に囁いた。
「ジェローム様がお戻りのようですが……」
「会うたのか?」
「先ほどそこでお見かけしました」
バルタザールは戸口の方へ目をやり、そこで興味津々とばかりにこちらを窺うラフィールに向かって、外に出ていろと顎をしゃくった。
「何かまたシャン・ド・リオンから要求でも?」
バルタザールは、心配そうな表情でカザルスの顔を窺う。
「まあ、それはいつもの如くじゃが、どうもあれには儂の態度が悠長に思えて気に入らんらしい。
父上は蒐集するばかりで物の使い方をご存じない、などとぬかしおったわ」
ふんと鼻を鳴らして、苦い顔のカザルスは顎鬚をさすった。
「蒐集……ですか」
やや頓狂な声を上げてバルタザールは苦笑する。
「お悩みなのはそのせいですか。随分とご機嫌悪そうに出ていかれましたから、何事かと心配致しましたが、親子喧嘩ならば私の出る幕はございませんね」