『通天閣』西加奈子 筑摩書房 二〇〇六年
キラキラしていなければ生きていてはいけないのか
西加奈子さんの第四作目の小説。冒頭より「どうしようもない」人間ばかりが出てくるのであるが、実はこれに少々嫌気がさし、途中で読むのをやめようかなと思ったのも事実。
しかし、帯にクライマックスでは深い感動が……と書いてあったので兎に角我慢して読み進んだ。
題名の通天閣、主人公の二人が住んでいるのがこの通天閣の近く。そして二人が人生の見方を変える、あるきっかけとなる事件があったのもこの通天閣。
大阪弁や通天閣界隈の人々の何というか「コテコテの」雰囲気というか、そんな情景が良く出ている小説であり、関西人としてはとても親しみの持てる(持ちたくないという意識も少しはあるのだけど……)小説であった。
出てくる人物は確かにつまらない人間達ばかりなのだが、(自分を棚上げして言っているのであり、自分もよくよく考えてみれば、登場人物達と距離があるわけでは無い)基本的には社会と距離をおいて生きていく事に決めた男と、何だか惰性で生きているような女の物語がオムニバスに流れてゆく。
惰性的、堕落的日々が延々と流れ、実はその最後のホンの一瞬がクライマックスなのである。
そのホンの一瞬の間に起こる出来事で、この二人、人生に対する思いを変えるのである。彼らを取り巻く社会は実は何も変わらないのだけど、思いが変わることによりこれほど人生に対する気持ちが変わるものか……ここがこの小説の真髄なのだ。
私もこれを読んでちょっと頑張ろうかなと思った次第。(生きる意欲が湧いてきます)
一番印象に残っている言葉「キラキラしていなければ生きていてはいけないのか」が最高!
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