仙術の不死の術など、まやかしのまじない、そのとき恵慈は皇子にそう言い切った。仏弟子として関わるなと、皇子は念を押されていた。「法広殿の話は仏法と相いれないところもある。ただ、それと隋王の内々の依頼とは別だ。蘇我の親父殿も同じ考えだ」

「それで、おれが割を食ったというわけだ」英子は笑う。

「まあ、いい。おれも、親父殿の命(めい)は断れない。それに、これでおれも親父殿に貸しができるというものだ」声を上げて笑う。

「それで、あの坊主が案内役か」皇子は頷いた。

「ただ、もちろん、あの法広殿はこのやまとの地を知らない。あなたが蝦夷まで案内する。その渡来人の末裔の気配があれば、法広殿がわかるという。不死の術書はともかく、子孫がいれば法広殿の出番となる」

「随分と、あやふやな話だな」

「東国の土着の毛人(もうじん)もいる。兵をつける」

「それが、あの老剣か」

「そういうことだ。戦をするわけではない。大勢の兵は東国では目立つ。かえって邪魔になる。戦も起きかねない。龍剣は役に立つはずだ」

「正規の軍と、若い剣士は西か」皇子は苦い顔をする。

「そう言うな。政(まつりごと)はいろいろあるのだ。再来月には裴世清殿が難波津から帰国する。

それまでには、結果を出すことが重要だ。念を押されている」

「あの坊主次第だな。本当に信用できるか」

「法広殿も、命が叶わなければ、隋で罰を受けるか。それとも、この飛鳥の地に生涯留まるか。二つに一つだ」

「なるほど」

皇子の静かな言葉に、英子は笑って頷いた。そして皇子は傍らの剣を、英子に差し出す。

「これは私の守り刀だ。妖魔をも断ち切る剣。七星剣だ。持っていれば役に立つだろう」

英子は受け取ると、剣を抜いて眺める。真っ直ぐな刀身が、自ら白く輝いている。

「なるほど。妖魔をも断ち切るか」そう言うと、笑って鞘に収めた。

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