上半身を安定させるために人間の骨盤が短く横に開いた形になり、がに股に湾曲していた大腿骨がまっすぐに変化し、骨盤から内側に向かって伸びていった。人間の背骨が胴体の下部で内側に曲がり、首の方に向かうにつれて外側に曲がるS字型に湾曲するように変化し、頭の位置が背骨のラインの真上に位置するようになった。

人類の体形は、これらの変化によって、頭・背骨・腰・足が並ぶ直立した姿勢になり、エネルギー効率のよい安定した直立二足歩行が可能になった。人間のつま先から頭までが、一本の線でつながるようになったのである。

まさに、人類と「細くて長い形」との最初の出会いが生まれた瞬間であった。直立姿勢をとった人間の骨格と、比較のためにチンパンジーの骨格を合わせて図1‐1に示す。

体毛喪失の道 

直立二足歩行するひ弱な人類の前に多くの試練が待ち受けていた。山火事や暴風雨や落雷などの天災はもちろん、恐ろしい捕食動物が先人たちを襲い、恐怖におののき逃げまどっていたであろうと容易に想像できる。

人類は生き残るために危険をいち早くキャッチして危険を回避する必要があった。ここで、皮膚科学研究者の傳田光洋氏は皮膚に注目した興味深い報告をしている。

人体の皮膚は視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚の五感すべてと、目や耳で感知できない紫外線、超音波、気圧の変化などまで感知できる驚くべき感覚器であることを実験で検証した。皮膚が“0番目の脳”とも言われている所以である。

類人猿から枝分かれして生まれた猿人は、類人猿と同じく全身を体毛で覆われ、外界の情報をキャッチする感覚器は目、耳、鼻、舌に集約されていたが、人類はおよそ百数十万年前に体毛を喪失させ皮膚を露出する道を選択した。

センサー機能を持つ皮膚が外界の危険のシグナルを素早くキャッチして危険回避の行動をとることができたのである。人類はこのすぐれた皮膚細胞を全身の表面に覆うことで危険を回避する能力を一段とアップさせ生き残ることができたのである。

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