おしるこ
子供の頃から私が覚えている限りでは、父はあの青年兵の話以外に涙などこぼしたことがあったであろうか?
陸軍航空隊にいたという父。戦争の話の中で、「空を飛ぶなんて怖い」と言う私達姉妹に「飛行機ほど安全な乗り物はないんだよ」と紙で作った飛行機を手に持ち、飛行機が空を飛ぶ原理を話してくれたりした。
子供の頃、我が家のお正月の朝は、元旦と2日がお雑煮で3日はお汁粉と決まっていた。父は軍隊でお汁粉が出た時の話をしてくれた。甘い物など殆ど食べられることがない軍隊生活で、お汁粉は何よりご馳走だったという。
まだ10代だった青年兵はたくさん食べたいが為に、熱いお汁粉を一気に飲み干してしまい、また後ろに並んでおかわりをしようとしたそうだ。だがお汁粉は食道も胃も大火傷を負うほどの熱さだった。何とその青年兵はその夜に、亡くなってしまったそうだ。
父は大粒の涙をこぼしながら「戦争はまだ未来のある10代の青年の命を奪ってしまったのだ。戦争は絶対にしてはいけない! 人は幸せになる為に生まれて来たのに。こんな事で命を落とすことがあったほど、戦争とは悲惨なものだったのだ」と泣いていた。
父はお汁粉を食べる度に、その青年兵の事を思い出していたのだと思う。私もお汁粉を食べると、この父の話を思い出してしまう。
好きな芸術に一生を費やし、90歳でこの世を去った葛飾北斎。モネやゴッホなどヨーロッパの芸術家達にも影響を与えたという人生もあれば、名も知れずに若くして悲惨な戦争のために命を落として行った人生もある。その青年兵はどんなに無念であったろうか。どんなに生きたかったであろうか。
私は70歳を迎えた時に、後どれくらいの時間が残されているのか分からないが、確実に減って行くという現実を改めて感じた。
それはネガティブな意味ではなく、本気で今後の有限である人生、何をしたいのかと考えた。大好きなプロポーションカウンセラーという仕事は、許されるならばもう少し続けていこうと思う。その為には美しくいる努力は手を抜けない。でもそれだけでは物足りない。欲張りの私はもっと何かをしたい。