「そうか、ならば本当にあの中に入ってもらおう。できるか?」

男は一瞬耳を疑った。

「え? あのギガロッシュに……ですか?」         

シルヴィア・ガブリエルはそれに答えるでもなく暫く黙って相手の顔を見据えていたが、やがてがっかりした表情で答えた。

「やはり口だけか……」

「い、いや、そんなことはないです。おらは本気だ。本当にその親方の所で修行がしたい。この間、話を聞いてからもう待ち遠しくて、待ち遠しくて。だけども、その親方は本当にギガロッシュの中に? おらをからかってそんな怖い所に連れ出して肝試しでもするおつもりか?」

男は怪訝な顔で問いかけた。

「そう思うのならやめておけ。行くも行かぬもお前の自由だ」

そう言い放たれて男の表情がすっと変わった。

「あんた様はあのギガロッシュの向こうから来なすったんで?」

「だったらどうする?」

男の顔が瞬間凍(い)てついた。

「だったらどうする? ここで大声をあげて誰かを呼ぶか? おれを城の衛兵に差し出すつもりか? さあどうする?」

シルヴィア・ガブリエルの落ち着いた冷ややかな声は男をぞっとさせたが、同時に退くに退けぬ決心を促した。

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次回更新は11月13日(水)、18時の予定です。

 

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