第三章 ギガロッシュ
「また下品なことを言うておるのだろう、ゴルティエ殿は」
ゴルティエの大声にカザルスがやって来た。
「おう、儂はお主のように品良く生まれついてはおらんのでな。だが、品が良くても悪くても、考えとることは同じよと、今こやつに教えとったところよ」
そう言ってまた腹を抱えて笑った。
「何が同じよ、そなたのように胃袋から下だけで生きておるような御仁と一緒にせんで欲しいわ」
カザルスはうんざりだとばかりの呆れ顔をして、
「こんな奴の言うことは気にするなよ」と笑って目配せをした。
大広間の入口で女たちの華やいだ声が聞こえた。すらりとした美しい貴婦人と可愛らしい幼女を取り囲んで広間に居合わせた諸侯の奥方たちが騒いでいた。
「お、マルゴだ! マルゴが来たぞ」
ゴルティエが面相を崩して叫び、巨体を揺らして駆け寄っていった。
入ってきた貴婦人はカザルスの長女のキエラ、幼い姫はその一人娘のマルゴであった。キエラはさすがカザルスの娘だけあって聡明そうに凜として、艶やかな黒髪とほっそりした長い首が美しい女であった。
彼女はゴルティエの息子のエルンストに嫁いでいたため、すなわちプレノワールとコルドレイユは縁戚関係であった。
カザルスにとってはあのお下劣(げれつ)さは少々困りものであったが、それを除けばゴルティエは男気の強い剛毅(ごうき)な人物であったし、息子のエルンストは幸運にも父親の品の悪さは受け継いでいなかったので、これはなかなかの良縁であった。
二人の間に生まれたのが来月六歳の誕生日を迎えるマルゴで、これはまた大層可愛らしい姫であった。生まれてこのかた一度も鋏(はさみ)を入れたことのない明るい栗色の巻き毛を背中まで垂らし、大きな瞳、桃のような頬、おすまし顔に小さくすぼんだ唇が誰の目にも愛らしい。