「おおそうかそうか、マルゴがせんでも儂がしておいてやったから心配せんでもよいぞ」
えらいご挨拶もあったものだ。
マルゴは大きなゴルティエの体越しに右から左から広間を覗いてカザルスを探した。あ、とカザルスの姿を見つけたマルゴであったが、その瞬間、マルゴの目はカザルスの傍らに立つ柔らかな金色の髪の美しい青年に吸い寄せられていた。
「おじい様、おじい様、ちょっと」
マルゴに裾を引っ張られて、何じゃ何じゃと身を屈めたゴルティエの耳に、
「おじい様、プレノワールのおじい様の隣にいるあのきれいな人は誰? マルゴ、あの方とお話がしてみたい」
と顔を赤らめて囁いた。これにはゴルティエも噴き出して、
「おお、マルゴ、お前は目が高いのお。カザルスの爺 (じじい) を探してシルヴィア・ガブリエルを見つけおったか。しかし去年まではバルタザールの側にくっついておったのに、お前も一人前に女じゃのお、隅にはおけんわ」
巨漢は満足そうに目を細めた。
「よしよし、儂が呼んでやるからな」
ゴルティエは、広間中に響き渡るような声でシルヴィア・ガブリエルを呼んだ。一同びっくりして一瞬にしんとなり、皆の目がゴルティエとマルゴに向けられた。
マルゴは大事な秘密を大音響で言いふらされたような気がして、顔を歪めてふくれっ面をした。
【前回の記事を読む】カザルスの城で催された年一回の大規模な宴。ギガロッシュの果ての村で生まれ育ったガブリエルにとっては度肝を抜くものだった
次回更新は11月12日(火)、18時の予定です。