幼い姫ながら、美しい母に伴われて一人前の貴婦人のごとく、真っ白な衣の裾をちょんと摘み上げて歩く姿や胸の下で結んだ水色の繻子(しゅす)のリボンが可愛らしいと、諸侯の奥方たちに褒めそやされているところであった。
「マルゴ! おおマルゴ、来たか来たか」
駆け寄ったゴルティエの巨体がすっぽりとマルゴを包み込んで、彼女の何倍もあるような大きな髭面で頬ずりをした。マルゴは髭が痛くて体を反りくり返して嫌がる。
その仕草一つも可愛くて堪らんと言うようにゴルティエはこの孫娘を抱きしめて、食ってしまうぞと口を開けて笑った。
「毎日会うておるくせにあの様(ざま)じゃ。あの大男も形無しよな」
こちらでカザルスが呆れかえってシャルルに話しかける。
「ゴルティエ殿は面白いお方でございますな。気持ちにありのままの子どものようなお方だ」シャルルが笑うと、カザルスは、
「良く言えばそうだが、悪く言えば生まれたままの猿よ、もうちょっと考えんとそのうち大事なマルゴに嫌われて大泣きするぞ」
とそれをさも心待ちにしているように愉快そうに笑った。ゴルティエは相変わらずマルゴの側で好々爺(こうこうや)ぶりを発揮して面相を崩していた。
「マルゴよ、あっちにお馬の形のお菓子があるぞ、ほれ儂が連れていってやるわ」
いきなりマルゴを抱え上げると、料理や菓子が山盛りになった大テーブルの前まで突進した。マルゴは嫌がって下ろせ下ろせと足をばたばたさせたがお構いなしである。
「マルゴはプレノワールのおじい様にご挨拶をしなければいけないのよ! お母様が広間に行ったら最初にそうしなさいって」
マルゴは口を尖らせてゴルティエに抗議した。