第三章 ギガロッシュ

「もう、おじい様は嫌! あっちへ行って!」

「わかったわかった。爺は邪魔をせんように向こうへ行っておるわ。シルヴィア・ガブリエル、ちょっとマルゴの相手をしてやってくれ」

何事かと心配顔で近づいてきたアンブロワの若い従者は、何だそういうことかと笑顔になって頷くと、マルゴの前に跪いた。そうすると彼の目は小さなマルゴとほぼ同じ高さになった。

「シルヴィア・ガブリエルでございます」

深い澄んだ水のような瞳が微笑んでいるのを見るとマルゴは思わずうっとりと頬が緩んだが、それでも一生懸命貴婦人らしい仕草で「マルゴじゃ」と右の手の甲を差し出した。

シルヴィア・ガブリエルはその可愛らしい仕草に笑みをこぼし、貴婦人にするように恭しく手を取ると、その甲に接吻した。マルゴは頬を薔薇色に染めて恥ずかしそうにはにかんで笑った。

が、次には姫らしくわざと大仰な口調で、

「シルヴィア・ガブリエルか、マルゴはそなたのお嫁になってやる。今はまだだが、そのうちな」と言うのでこれには彼も仰天した。

あまり露骨に笑えば姫がご機嫌を損ねるだろうと案じ、わざと神妙な顔で頭(こうべ)を垂れた。

キエラがマルゴを呼び戻してくれたので、お役ご免でやれやれと思っている彼の下(もと)に、今度は待っていたとばかりにゴルティエやカザルス、シャルルたちが寄ってきて興味津々に「おい、何と言われた?」と聞く。

「はい、嫁になってやると言われました」と正直に答えると一同腹を抱えて笑った。

「これは傑作だ。幼くとも女は女だのお。美しい男には目敏(めざと)いわ」 

 カザルスが喜色満面にそう言うと、横からバルタザールが、

「何と、マルゴ姫は去年までは私に色目を使っておいででしたのに、この者のお陰で私も袖にされましたね」

と口を挟んだのでまたまた割れるような笑い声があがった。