第三章 ギガロッシュ

男は一気にそう喋ってしまうと逆に度胸が据わってくるような気がして、今度は自分から聞き返した。

「おらはいつあそこへ行けばよろしいんで」

息を呑んでこの男の出方を見ていたのはシルヴィア・ガブリエルも同様であった。男の言葉にほっとしたのはおそらく彼の方であったが、それを気取(けど)られないように努めて冷静に話を続けた。

「今夜、夜が明ける前にギガロッシュの前まで行け。そこで夜明けを待って岩の中へ入れ。行くことは誰にも言うな、行くのもお前一人だ、いいな」

男は黙って頷いた。

「地図は描かぬから頭の中に思い浮かべて聞け。ギガロッシュの入口には大きな板のような岩が三枚立っている。お前は向かって右側の一枚目と二枚目の間を潜(くぐ)って中に入れ。

入るとすぐに行く手を遮る大きな塊の岩があるからそこを右に。すると入口の岩よりも更に大きな衝立のような岩が見える。その岩の後ろに回ると、前からは見えなかった双子のような岩があるからその間を行け」

シルヴィア・ガブリエルの言葉に導かれて、男の視界はその先もどんどん複雑な岩の迷路を通っていく。男はその目に見えるような映像を脳裏に深く焼き付けるように神経を集中させて聞いた。

道順をすべて聞いたあとも男は目を閉じてその道を何度も辿った。

「どうだ、覚えたか」

男は何か言葉を発すると今頭に詰めた物を取り落としそうな気がするので黙って頷いた。

「もしも道に迷ったら、下手に動き回らずに途中に通った女神岩まで何とか戻ることだけを考えろ。あの岩は比較的見つけやすいから、見つけたらそこを動くな。きっと夜までには誰か村の人間がお前を見つけてくれるだろう。誰かに会ったら俺の名を言え。俺に教えられてここに来た、ガストンの親方に会いに来たと、そう言え」

男は、その親方の名前を聞いてすがるような目をした。その親方の所へ行くのだという、はやる気持ちが恐怖を少し和らげた。       

シルヴィア・ガブリエルは、夜中にこっそりと抜け出してギガロッシュまで来ていた。