その日の新年の会はマルゴのお陰で例年になく和気あいあいと面白いものになったので、皆寛いで宴も長く続いた。
宴の途中で人目を避けて、こっそり大広間を抜け出したシルヴィア・ガブリエルは警戒しながら城の裏手に向かった。
大勢の人間が集まる日は人目も多くて危険であったが、その分またどこで何をしていようが不審に思われることもないと踏んだ。向かった先はこの間ペペという男に出会った場所である。
あの男が約束を心待ちにしているのであれば、おそらく今日はその辺りで彼を待ち構えているに違いない。
案の定、そこに男はいた。ずっと待ち構えていたらしく、彼を見つけるとほっとして脱力したように見えた。
「多分、今日こそはと思って待ってましたんで。でもお偉い方が大勢おいでで、やっぱり抜け出せんのかなと……。ああ待っとって良かった」
男は嬉しそうに胸の前で手を合わせた。
「そうか、俺はお前がいなければ、それはそれでほっとするところだったのだが」
彼がそう言うと、男は一瞬不安に顔を曇らせ息を詰めた。
「いや、こっちの話だ。まあ安心しろ、来ていた以上は俺も約束を果たそう」
男は「はぁ」と息を吐いた。
シルヴィア・ガブリエルはもっと人目につきにくい建物の陰に男を引き入れて、顔を近づけ低い声で尋ねた。
「お前、確かあの怖ろしいギガロッシュにだって入っていける覚悟だ、と言ったな」
「へえ、おらはどこにでも行ける覚悟はできていますで」
男は目を見てしっかり頷いた。