他方、祐一の母や弟も、祐一の堕落ぶりを知って、母も弟も、何度も生活を改めるよう諭したが、「干渉しないでくれ」と頑として怠惰な生活をやめないでいるのでついに見放したままになっている。
祐一は肉親にもやはり自分の症状を告げていない。健常者には自分の真の気持ちなんかわかってたまるかと周囲の人間からバリヤーを張り続けた。
恵理は、高校で島から出さえすれば、自分の父のことを知らない生徒たちになるので、もういじめられなくなるんだという夢を持っていたが、高校に進学する金も底をつく生活の中で、進学は断念することにした。
しかし、智子はどうしても恵理を高校に進学させたいと思っていた。酔っ払って暴力を繰り返す祐一から切り離したいと思っていた。
そんな暮らしのある日、中学校の担任、野口先生と智子そして恵理との3者面談で進路指導の日となった。この面談の直前、恵理は進路について自分の考えを話していた。高校には進学しないと。
この沖ヶ島の中学3年時の3者面談は非常に大切であった。何しろ島に高校はない。進学する者は全員親元から離れて島外へ行くことになる。どの高校にしても、下宿や寮の選択は大事である。またそこに親族がいればその家で暮らすという選択肢もある。いずれにしても、家族と離れなければならないので先生も親も生徒も真剣そのものだ。
中学3年生は5人しかいないのですぐに順番がきた。智子と恵理は、担任の教師、野口のいる部屋に入った。「先生、よろしくお願いします」智子は深々と頭を下げて言った。
「よろしくお願いします」恵理も続いた。いつも身近な先生に言うのは少し照れる。「はい、よろしくお願いします」男の先生である。
沖ヶ島小中学校と、生徒数の減少でひとくくりになっている。現校舎は小学校と中学校にそれぞれオープンスペース方式と教科教室型が採用されている。