第一章 壊れた家族
それこそ東京都立太洋高校じゃなくても、本土の高校ならどこでも良かった。
「恵理、あなたには、島外で青春を謳歌してもらいたいのよ。いつまでも沖ヶ島にいちゃ井の中の蛙大海を知らずになっちゃうから。お母さんはどうしても高校進学してもらいたい」
「私、この島が好きなの。この島から離れたくない」
「どうして? 私が言った通りにしなさい。後で気付いても遅いのよ」
「大丈夫。お母さんは心配しないで」
智子は、自分の家の恥になるので、夫のDVから逃がすために高校へ進学を勧めているんだとは言えなかった。一般論しか言えなかった。
そこへ追い打ちをかけるように野口が言った。
「実は、今、アルバイトですが、島の村役場で若い事務員を募集しているんですよ」野口は恵理から就職希望と聞いていたので村内を探していた。
もちろん、八丈島、更には東京の中卒者募集の資料にも目を通した。ただし、東京には膨大な求人数があり、どこが良くてどこが悪いのかよくわからない。それなら身近な島内でということで、中卒の新卒者を雇ってくれる就職先を見つけたのだ。
「小川、ちょうどいい就職先を先生は見つけておいたんだよ」野口は胸を張った。「先生、そんな。この子は島外に進学させます」智子は強い口調で言った。
そんな智子の必死さに比べ恵理は冷静に「先生、聞かせて」