【前回記事を読む】いろいろ話して楽しかった入院生活。ナースになった理由を尋ねたら「そんなの決まっているじゃない...」
第二章 看護師へのルーツ
三年生になった時点で、さすがにそろそろ将来のことを考えなければならなくなった。二人は大学進学を希望していたが、残り一人の陸上部の子は実家の商売を継ぐために、高校を卒業したらすぐにパン焼きの修行をすると言っていた。ベーカリーを営んでいたのだ。
自分はどうしようかな……、少しずつ暖かくなるにつれて、私は来年の進路についての思いを巡らせていた。そんな矢先だった。陸上部でない二人の友だちのうちの一人、岩田恵美(いわたえみ)ちゃんが、定期券の入ったパスケースを落としてしまった。学校に着いてから気づいたので、改札を出てから校舎に着くまでの道すがらであることには間違いなかった。
「小川駅の改札あたりかもしれない……、うまくポケットにしまえていなかったかも」
恵美ちゃんは、リュックに備わっている脇のポケットを見ながらそう推測した。ファスナーが半開きになっていたのだ。それはそれで失敗だが、すぎてしまったことは仕方がない。
「しょうがないね。帰りに駅員さんに届け出がなかったか聞いてみるくらいしかできることはないんじゃない」と、私は場当たり的な対策方法を告げた。
が……、残念ながら届け出はなかった。友だちは、帰りの切符を購入しながら、「まあ、何日か待って出てこなかったら親に頼むしかないか」と言いながら、その日は別れた。
そして次の日の朝、私の顔を見るなり恵美ちゃんは、「定期券を拾ってくれた人がいたよ。昨日、拾い主から電話があった」とのことだった。なんと、それは運が良かった。
「そう、それはラッキーだったね……、で、どこにあるの、駅に届けてあるの?」
私は思ったことを口にした。課題は、それをどう回収するかだ。定期券はいまどこにあって、どういうふうに返されるのかを尋ねた。
「夕べ、見知らぬ人から突然電話がかかってきて、定期券を拾ったからすぐに返したいってことになってね」
なるほど、駅に届けてあるのではなく、直接手渡しで返してくれるというのだ。
「そうなんだ。じゃあ、その拾い主さんとやらと、どこかで待ち合わせでもしたの?」
「まあ、聞いて智ちゃん!」
なんだか恵美ちゃんの顔が、さっきから輝いている。
「どうしたの?」
そんなに興奮することだろうか……。
「えっと、夕べね……、“自分は、小川市に住んでいる吉田(よしだ)と申します”と言って電話がかかってきてね、なんか爽やかな声の男の人だったの」
恵美ちゃんの声が、さらにワントーン上がったのがはっきり聞き取れた。
「男の人!?」