第一章 壊れた家族

智子も恵理も、祐一が荒れる理由があの事故にあるとしか思えない。

しかし、こんな祐一にした要因に自身のパニック障害があると確信している両者の溝は広がるばかりだ。何しろ自尊心の高い祐一は、自分のパニック症状のことは口が裂けても言わない。だから解決の糸口がない。

祐一が何故荒れているのか。それは事故以来、船を出したらまた強烈なパニック障害が襲ってくることに耐えられなくて、船を出したくても出せないことが悔しくてたまらないからだ。

人生が絶望に満ちていた。その絶望感をわかってくれないから家族にあたり散らしたのだ。あたれば船に乗れるようになれる訳ではないのに実に愚かな人間だ。いや、もう人間のお面を被った鬼だ。船のローンは待ってくれない。

昔は一家の大黒柱であった祐一だが事故以来、陸からしか釣らないので収入は激減。智子の農業収入よりも少なかった。一家は、農閑期になると明日の米さえ食べられないぐらい貧しい生活を強いられた。

その間、実家に住む智子の父親は、それでも祐一を庇う智子に「離婚しなさい」と盛んにアドバイスした。それにもかかわらず「私は夫を見捨てません」と頑として譲らない娘についに決断した。

「親子の縁を切る」それでも智子は聞かなかった。