第一章 壊れた家族
この症状については、先述したように、他人に話すと伝染して人類が滅亡すると決め付けているのだ。だから、いかに妻とはいえ言う訳ない。
智子は、例の漂流事故以来人が変わったと勘違いしている。祐一は妻にさえわかってもらえないために、ますます窮地に陥っていた。
本当のことを話していないから仕方がないのではあるが。例の事故が原因じゃないんだと言えないだけに歯がゆい。愛妻だけに勘違いされていることに勝手に腹を立て、ついに切れた。
「俺のやることにケチを付けるな。貯金すればいいんだろう。してやるよ。その代わり貯金通帳は俺が管理する。お前は金のことに口を出すな。てめえは畑だけやってろ」
智子はこの間、初めて祐一に怒鳴られたが、その時は一家は恵理を介してうまく収まった。
だが、この日は違う。2度あることは3度ある。これが常態化するんじゃたまったものではない。気持ちが動揺した。
「ごめんなさい。私が言い過ぎました。そりゃあ、不漁続きじゃ嫌にもなるでしょう。貯金通帳は任せる。お父さんを信じてるから」
「任せとけ!」妻の殊勝な態度に気を良くした祐一は、仁王立ちで威張った。
「明日からいっぱい魚が釣れるといいね」
「そうだな」