第三章 専務の背任と常務の登場
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声の主を求めて振り向くと、俺を見下ろしている神仙老人が真後ろに立っていた。
「太郎、久し振りじゃのう。わしの授けた力で何とかやっておるようじゃな」
神仙老人は隣に腰かけてきた。薄っぺらな着物姿に、素足の草履履き、手に持っている杖、何も変わっていなかった。神仙老人と会わなくなってから今日までのことを聞いてもらおう。口を開きかけた時、俺の方に向きを変えて見つめる神仙老人の微笑む顔があった。
「太郎、何も話さなくてもよい。わしには全てが分かる。相手の顔を見れば、過去も現在も未来も分かるのじゃ。この何ヶ月間、試行錯誤しながら透視力を他の者のために使ってきたようじゃな」
白いひげをなでながら、遠くを見つめる姿があった。
「は、はい。でも、一回一回に時間もかかります。労力もかかります。何よりもどうしていいのか分からないことの方が多くて。神仙老人、憑き物を即座に善なるものに変える術を授けてもらえませんか?」
花見の酒が残っているせいか、勢いで思っていたことをしゃべりきった。
「うむ」と、神仙老人はひと息吐きながら、石段を両側から取り囲む桜に目を移している。