教授室に入ると、関根教授はデスクの上のノートパソコンをぱたんと閉じて、ふたりに向き合った。

「そこに座りなさい」

簡素なソファとテーブルが置いてある。ふたりはソファの隅に小さくなって座った。

「それでは……」

眼鏡をはずして、関根教授が話し始めた。

「まず一応、弁解から聞きましょうか。今日の講義の居眠りについて、何か正当な理由がありますか?」

正当な理由ときた。居眠りに正当も不当もないだろう。

ただむやみに罰するわけではないらしい。一応理由は聞く。そうして筋を通すのが、この先生のやり方なのだ。

「では、櫻井さんから」

「はい」

真琴はしばらく黙っていたが、思い切って言った。

「先生は今朝、市内で放火があったことはご存じですか?」

いきなり違う話をふられて、関根教授は一瞬面くらったような表情をした。

「ニュースで見たような気がしますが……。それが何か関係ありますか?」

「はい。実はその放火があった家は、父の実家と同じ団地でして……」

関根教授は、まぁ、そうだったの、という表情をした。

「それで……その家には、以前、父の遠い親戚が住んでおりました」

あずみは目をむいた。そんな話は聞いていない。

「親戚は何年も前に亡くなっていて今はおりません。そのためわたしたち一家が管理を任され、火事があった今朝も急いで駆け付けたのです。朝早く出掛けたので睡魔に襲われました。すみませんでした」

真琴の父親が亡くなったことは、学内でもすでに知れ渡っていた。