「ああ、知ってる。打った者も、細工を施した者も知り合いだ」
「ええっ! まことですか!」
男はしばらく黙って考え込んでいた。深追いをせず、それを残してシルヴィア・ガブリエルが立ち去ろうとすると、男は慌てて追いすがって彼を呼び止めた。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい」
男は思い詰めたような真剣な顔をしていた。
「その村は何という村で? おら、行ってみたい。その親方に会って、会ってちょっとでええから仕事を見せてもらいたい。どこ、どこでございますかその村は?」
男はすがるような目で訴えてきた。
「ふん、百姓のお前が無理してここを離れて、俺の村の親方に会ってどうするというんだ」
シルヴィア・ガブリエルは、はぐらかすように笑った。
「それはそうだども、さっきの剣を見せてもろうては、おらはどうしても忘れられん。どうするもこうするも、一度でええから見てみたい。ただそれだけでございます」
「ただそれだけ? 本当にそれだけでいいのか? そこでその親方に弟子入りしてみたいとか、お前はそんなふうには思わないのか?」
男は目を皿のように見開いた。
「そんなことができるんなら、おら今日にでも行ってみたい。百姓のおらにはそれができんと言われるなら……」
男はきっとした表情になった。
「おら、逃げてでも行ってみたい」
【前回の記事を読む】持っていた刀のことを聞かれて飾りのような代物だと嘘をついた。本当は、村の匠が鍛え上げた銘刀であったのだ…
次回更新は11月9日(土)、18時の予定です。