第三章 ギガロッシュ

「お前が? 研ぎ師なのか?」

「いやいや、おらは本当は百姓でございますが、ガキの頃から刀剣を研ぐところを見るのが飯を食うよりも好きで、暇があると見に行ってたんで。あんまり足繁く行くんで見よう見まねって言うんですかね、覚えてしまって。鍬(くわ)や鉈を研いでるんじゃつまらなくて、一度試しに門番の刀を研がせてもらったら評判が良くて、こうして時々皆さんのをお預かりしとります」

男はひょろ長い体を縮めて喋った。自信がないのかどうなのか、男は妙に気配を小さくしていた。

「ほう、ここにはちゃんとした研ぎ師もいるだろうに、それでもお前に? 見ればなかなか良いものもあるみたいだが」

「へえ、どうも研ぎ師の親方んとこの職人よりもおらの方がうまい、とかで。だけども親方に見つかるとまずいので、おらはいつもこうして裏からこっそりと」

男は声を潜めて、黙っていてくれというような仕草をした。なるほどこの男がおどおどしているのはそのせいか。

「ならばいっそのこと親方の所に弟子入りしてしまえばいいじゃないか?」

「おらは百姓ですで……」

男は滅相もないというように首を振った。

へぇ、そんなものなのか、百姓の倅は百姓と決まったものなのか、とシルヴィア・ガブリエルは自分たちの村との違いに驚いた。

「そこまでしてお前に研いでもらおうというのは相当腕が良いのだろうな。俺の剣も研げるか?」

ちょっと考えが閃いて腰から皮袋に入った自分の剣を男に手渡した。