第三章 ギガロッシュ
「これですか? これは格好をつけているだけですよ。旅をするにも、こうして剣を持っている振りをするだけで盗人よけにもなるでしょ。中身は村の鍛冶屋が見よう見まねで打った飾りのような代物(しろもの)で、とてもお見せできるような物じゃないです」
そう笑って見せたが、嘘である。実を言えば村の匠(たくみ)が鍛え上げた銘刀である。しかし、そんなことは今はまだ言うべきではない。
「ふうん、格好づけか。だがそんな物持ってお前は故郷では何をやっていたんだ? まさか百姓でしたってわけもあるまいし」
どう見ても力仕事をしていたような体つきではない。
「何をやっていた? さあ、何をやっていたんでしょうねえ……」
問われて改めて考えると本当に自分は何をやっていたんだろうかと思う。十歳までは病室で無きに等しい人生を送っていた。その後もこれといったことは何もしていない気がする。
「役立たずでしたね、私は。遊んでいたようなものです」
「遊んでいられるようなご立派なご身分のお育ちだったってことか?」
バルタザールが皮肉たっぷりに聞いてくる。
「まさか! 村にご立派も何もありませんよ」
「ほう、仕事もせずに妙な剣術覚えて、お前みたいな色男がぶらぶらしてたってことか。よく親父殿が黙っていたもんだ」
バルタザールは疑り深い視線を寄越した。
「親父?」
「いるんだろ? 親父殿は」