男は抱えた剣の束を下に置くと、急に百姓から職人の顔に変わって恭しくそれを受け取り、どれ、というように剣を抜いた。
抜いた途端、気配を小さくしていた男は「うおぉ!」と思わず大きな声をあげてしまった。
「こ、これは……」
男の顔はまるで地面から金の蕪(かぶ)でも引っこ抜いたような驚きを見せていた。それはこの男が生まれてこのかた一度も目にしたことがないような剣だった。
抜いた瞬間に辺りの空気がきゅっと引き締まり、剣の持つ気がそこを支配した。
誰が打って鍛えたものか、ずっしりとした重みがありながら、握りのまことに手に馴染む感触がその重みを重さとして伝えない。細身の刀身は先に向かって微かな反りを描き一筋の冷えた光を宿していた。
更に驚いたのは、その刀身に施された見事な彫り物である。
一人の裸身の戦士が頭上高く両手で剣を振り上げている姿が極めて細密に彫り込まれていた。振り上げた剣は握りの部分に大きく描かれ、実際の刀身と真逆の方向にもう一本の剣が抜かれているような構図になっていた。
振り上げた戦士の上向きの表情は心なしか苦悶(くもん)の色を浮かべ、引き締まった裸身には足元から蔓薔薇が絡みつき戦士の陰部を覆い隠しながら胸から首へと這い上がっていた。
「こ、こんな……」
男は息を殺してじっとその剣に目を凝らしていた。それからふっと正気に戻ると、さっと手早く剣を皮袋に納めて慌てて差し返してきた。
「無理です、これはおらには研げません。おらの腕ではこの剣には手が出せません」
男は何かを振り払うようにそう言うとまた剣の束を拾い上げた。
「そうか」
あえて素っ気なく剣を受け取ると、シルヴィア・ガブリエルはまた腰に納めた。それを男は恨めしそうに見ていたが、未練は断ちがたい様子だった。
「あのう、その剣はいったいどこで打ち鍛えられた剣なのでございますか?」
「これか、これは俺の故郷の村で作られたものだ」
「では、打った人のこともご存知で?」