第一章 認知症におけるEQ

IQとEQ

EQ(Emotional Intelligence Quotient)は、ピーター・サロベイ博士とジョン・メイヤー博士が1990年に発表した理論です。彼らはビジネス社会における成功の要因を探るために、心理学的な研究を行いました。

今の日本ではだいぶその価値観が揺らいではきましたが、それでも学歴という価値観が重きをなしています。

当時のアメリカではそこまでではなかったと思いますが、しかしIQ(Intelligence Quotient)発祥の国だけあって、IQの高い人が社会的にも成功するとなんとなく思われていました。

しかし、実際に調べてみるとそうではないことが明らかになります。IQが高いからといって社会で成功するとは限らなかったわけです。

もちろんこれは日本において「IQ」を「学歴」に置き換えてみても同じことが言えます。そういえば我々の周囲を見回してみると、学歴とは関係なく社会的に成功している方々はけっこうおられるはずです。

そこで常識を疑った両博士が、IQ以外に社会的成功をおさめるために必要な要素を探し、見つけ出したのがこのEQでした。

両博士はビジネスパーソンに幅広く調査を行った結果、対人関係能力に優れている人こそが社会的に成功しているという結論を出しました。

このように新たなビジネススキルを見つけるという研究から見つかった理論だけに、EQは現在の日本では主にビジネスの世界で広く用いられるスキルになっています。

さて、対人関係能力とはいったいどのような能力でしょうか? 具体的には人の感情に働きかける能力です。人は生活の中で、理論や理屈だけを用いて判断をしているわけではありません。

例えばアサリの産地偽装問題が発覚し、〝熊本産〞と誤表記されていたアサリが一斉に〝外国産〞と正しく表記されるようになると、アサリがほとんど売れなくなってしまいました。

今まで私達は〝熊本産〞と表示された〝外国産〞アサリを普通に食べていました。しかし、その同じアサリの産地表示が変更された途端買わなくなってしまった、つまり食べなくなってしまったのです。

同じアサリだと理屈ではわかっているのに感情が拒絶してしまったのです。これは判断に際し理性よりも感情が優先してしまう典型的な例だと思います。特に食に関する判断には感情が大きく影響します。