テレビや街中にあふれるたくさんの広告宣伝には、たくさんの〝好感度〞の高いタレントさんが起用されています。
通り過ぎていく広告の中に、くどくど商品説明が書いてあっても誰も読まないからです。私達は一瞬感じた〝好感〞という感情とともに商品のことを覚えていくのです。
逆に起用されているタレントさんがスキャンダルでも起こそうものなら、その人々の頭の中の商品の記憶は、一瞬で〝嫌悪〞の感情とセットになり、上書きされてしまいます。
〝嫌いな人〞がいくら正論を話しても、その話の半分も集中して聞けないですよね。職場が〝嫌〞だったり、仕事自体が〝嫌〞だったりすれば、理屈抜きで一生懸命にはできませんし、新しいアイデアを出す努力はできませんし、自己犠牲をしてまで仕事をしたくはないですよね。
そんなネガティブな気分、感情の持ち主が集まっても、その職場でいい結果が出るはずがないのです。
職場の成績が上がれば賞与が上がるとか、逆にここで頑張らなければ、会社がつぶれるとか、理屈、正論をいくら言われても、ピンとこない、もしくは本気になれないわけです。
そこで気分の乗らない人達に成果を出させる方法としてノルマという話が出てくるのですが、気持ちが乗らないのに結果を出せと言われるとどうなるでしょうか?
そんなストレスが多くの心の病を生み出してきたわけです。
そんな中、このEQ理論の重要性にいち早く気づかれた高山直さんが、両博士に直接会いに行き、この理論を日本に持ち帰って日本のビジネス界に応用されました。本書ではこの高山さんの著書から多くの示唆を得ています。
わたし自身の経験でも、IQが高くてもビジネス社会で成功しない人をたくさん見てきました。逆に高IQ(一般に高学歴)に関係なく、成功している人がたくさんいることも知っています。そういう人に共通しているのは、人の気持ちがわかり、人のために動けることです。
(『EQトレーニング』高山 直著 日経文庫)
私は認知症診療の現場にいて、医療者や介護者が認知症患者に無意識に行っている対応がこの「感情をうまく管理し、利用できる」スキルではないかと考えたのです。
ですので、本書ではまずEQ理論について、その理論と使用法を詳しくご紹介します。そして実際の臨床の現場にそれらを当てはめることで、そういう視点がどれほど臨床や介護の現場で有用なのかを説明することにいたします。
【前回の記事を読む】「自分のIQは生涯ずっと変わらない」というのは勝手な思い込み。年齢とともに脳は老化しIQは下がるが、EQは長期間保たれる