第一章 認知症におけるEQ
子どもの非認知能力
認知症の項でも繰り返し触れると思いますが、私達はどうしても知能というとどこかでIQのことだと思い込んでいて、そちらに考えが引っ張られてしまいます。そのためつい、失われてしまった認知機能つまりIQを取り戻そうと考えるのです。
具体的には、認知症の方にさらに脳トレをさせて"衰えたIQ"を鍛え、衰える前のIQに戻そうとしてしまうわけです。
脳トレと運動を組み合わせるコグニサイズなど多くのトレーニング方法が考案されていますし、それらには実際に認知機能維持の効果があるのですが、これまでの認知症に関する検査や治療などのアプローチは、どちらかというとIQを中心とした認知機能の改善や維持ばかりを想定していました。
しかしP23のグラフで示したようにIQとEQの2種類の知性が存在するわけですから、IQのトレーニングだけをしていては効率が悪いように思います。せっかくEQという知能がたくさん残されているのですから、この宝の山を用いないのは如何にももったいない! そのような意味で、この項ではEQを生かす方法を学んでいこうと思います。
話は変わりますが"ビジネスの世界"でも、また人間の能力を伸ばすという意味で専門分野である"教育界"でも、認知症の例と同じように、長い間IQを鍛えるための手法に重点が置かれてきました。
しかし最近の教育界ではこれまでの手法を見直そうと、EQとつながりの深い"非認知能力"という単語が注目を集めるようになっていますので、ここでご紹介いたします。
非認知能力とEQはそのままイコールではありませんが、非認知能力が教育界で注目を集めるきっかけとなった、国立教育政策研究所の「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書」(2017年)にはEQの内容が詳細に記述されていて、EQと非認知能力が類似の考え方であることを示しています。
テストの点数などで数値化できる能力を認知能力と言いますが、逆に数値化されにくい能力を非認知能力と言い、近年この能力が教育界で注目されています。IQ(知能指数)は認知能力ですが、EQはどちらかというと非認知能力と言えるかと思います。
非認知能力に注目が集まるようになったきっかけは、1960年代にアメリカで行われた「ペリー就学前プロジェクト」です。この「ペリー就学前プロジェクト」とは経済的に恵まれない3〜4歳のアフリカ系アメリカ人の子ども達を対象に行われた研究のことです。