「実はその、荒馬騒ぎの時に初めてお姿をちらと拝見いたしましてから、ずっと気になって仕方がなかったのでございますが、その、仕事柄と言いましょうか、今あなた様がお召しになっております物が……。お見受けするところ実に柔らかな織物で作られておるようで、そのような風合いの織物にはまだ手を触れたこともございません。いったいどこで織り上げられた生地なのでございましょうか?」

男はこちらの気分を損ねないように随分と気を遣った様子で尋ねてきた。

「これか、これは故郷の村で織られたものだが……」

シルヴィア・ガブリエルは男の目的がわからず、やや警戒心を強めた。

「ほう、故郷の村ですか! いや、これは驚いた。いったいどこの異国で織られたものかと思っておりました。私もこのような仕事に携わっておりますと、それがいかに素晴らしい織物かは遠くから拝見しただけでもわかります。それゆえどこの職人がそれを織り上げたのか、ずっとそればかり気になっておりました。あなた様の故郷の村とはどちらに?」

「ヴァネッサという村だ」

彼はなるべく素っ気なく返事した。

「ヴァネッサ? 私は存じませんが、見事な技術をお持ちでございますなあ」

シルヴィア・ガブリエルは男の狙いを掴みかねて不安をつのらせた。

「実はその、ぶしつけではございますが、是非一度あなた様のそのお召し物に触れさせて頂きたく、ちょっとお借りしてその生地の織り具合とか織り糸の様子とか実際手で触れ、学ばせて頂きたいと思って今日はまいったのでございますが……」

「この服を貸す?」

シルヴィア・ガブリエルは面食らった。

「いえいえ、ここで身ぐるみ剝(は)ごうとか、そういうことではございません」

男は慌てて言葉を継いだ。

「実はここに一着新しい服をご用意して参りました。今お召しの物に比べれば随分と見劣りのするものではございますが、あなた様にお似合いになりそうなものをしつらえて参りました。どうか、一時(いっとき)これをお召しになって頂いて、その間にしばらく今のお召し物を私にお貸し下さいませんでしょうか」