第三章 ギガロッシュ
久しぶりにアンブロワに帰ったシャルルとシルヴィア・ガブリエルは、予想外に大きな歓声をもって領民に迎えられた。
イヨロンドをノエヴァに放逐したという快挙を、領民の誰もが大いに喜んだ。
とりわけその若い従者への関心と人気が高く、手柄話としてもてはやされる一方、噂が大きくなって、彼がシャルルを庇ってイヨロンドに刺されて大怪我をしたとか、いやいや実はそれで死んでしまったのだがカザルス殿の名医が生き返らせたとか、とんでもない話に膨れあがっていた。
どうやら彼が仮死で生まれたという噂と今回の事件が混同されて広がったようで、彼らは帰る早々その出鱈目(でたらめ)な噂の収拾に苦労させられた。
ともあれ、ふらりと出現した胡散臭い旅人はあっという間にアンブロワの有名人となって、何よりその容姿の端麗さも加わり、至る所でかしましく話題に上った。
彼は行く先々で呼び止められ、声をかけられ、どこの何某(なにがし)と紹介され、ある時には旧知の間柄のように「また家に寄れ」などと肩を叩かれた。
女たちは彼が通ると仕事の手を休め、年増(としま)は目を皿のようにして眺め回し、若い娘は頬を赤らめて上目遣いに彼を盗み見た。
誰もが彼に関心を示し、近づきになりたいと願った。
そんな折、使用人の少年を従えた男が恭しく彼の下(もと)に近づいてきた。身なりのこざっぱりとした感じの良い男で、少年は布にくるんだ荷物を持たされていた。
「シルヴィア・ガブリエル様」と男は騎士殿に声をかけるように丁寧に呼びかけた。
「私はダヴィッドと申しまして、このアンブロワのご城内で仕立屋を営む者でございます」
男は帽子を取って頭を下げた。