眠れる森の復讐鬼
二〇一四年三月二十三日、月曜日の昼休み、急に教室が騒がしくなった。スマホに衝撃的なニュースが流れてきたからだ。
その日の未明午前三時頃、山本公園で火災発生の通報があり消防隊が駆け付けたところ、人が炎に包まれて倒れているのを発見。病院に救急搬送されたが全身に火傷を負っており、意識不明の重体。近くに灯油を入れていたポリタンクが落ちており、焼身自殺を図ったものと思われる。
顔面を含め全身が焼けただれているため患者の身元は不明だが、身長一五〇センチメートル程度の女性と思われる。直前に母親から女子高生の娘がいなくなったと警察に連絡があり、関連を調べている。また、前日の夜間近くのガソリンスタンドで若い女性が灯油を購入したとの情報があり、関連を調べているという内容だった。
「えっ、これってひょっとして信永じゃねえの?」
机に尻を据えていた高橋漣がにやつきながら言った。
「えっ、うそ、こわ」
前の席に座っている女子が胸の前で腕を交差して体をすくめて見せた。
「虐めてたのあんた達でしょ。私恨まれたくないからね」
「お前も虐めてたろうが。ほうら、化けて出るぞお」
「きゃあ! ちょっとやめてよ」
海智はこの悲劇に衝撃を受けていたが、高橋達が馬鹿騒ぎしてはしゃぐのを聞いて、腹の中で嫌悪と憎悪と憤怒がドロドロに溶融され混ぜ合わされ、その化学反応によって得られたエネルギーを抑えきれず、遂に爆発しそうになるのを感じた。
実際もう少しのところで高橋を殴りつけるところだった。だがそれにブレーキを掛けるものがあった。それは、もし焼身自殺を図ったのが梨杏だったとして、その場所に何故あの公園を選んだのかという疑問だった。
あの公園で彼がすげなく袖にしたことを彼女は恨んでいたのではないか。その後も虐められているのを目撃しながら彼が一切助けようとしなかったことに絶望したのではないか。その当て付けにあの公園を自殺の場所として選んだのではないか。
裁かれるべきなのは桃加や高橋達ではなく、自分なのではないかという疑念が辛うじて彼の怒りの矛先を鈍くしたのであった。