義理の父や母のことは嫌いではないのだが、その生活環境が、自分が育ってきたものとあまりにもかけ離れているので、生理的に受けつけないのだからしょうがない。
祖父にわけを話しても理解してもらえないと思っているのか、父はいつもごまかして、ありもしない言いわけばかりしている。
そんなことだから、帰省することが決まるまで、必ず夫婦喧嘩がつきものとなっている。結局は母だけが留守番をするということになるのだ。母はもう忍耐の限界に達しているのだろう。
四年前は、母を残して俺と妹と父の三人での帰省となった。いつものことだが、俺たちが到着すると、祖父は父に対して母が一緒でないことを咎めるような言い方をするのだが、俺と妹の顔を見るとそんなことはすぐに忘れてしまう。
俺も妹も、本当は父を助けるためという気持ちで一緒に帰省しているといってよかった。
今回も母抜きの三人旅になった。四年も経つと変化があるもので、一日に数本しかない路線バスのダイヤが変更されているのを知らずに、二時間も余計に待たされて、本当に一日がかりの長旅の末、夕刻になってようやくたどり着いた。
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祖父母の家は、江戸時代に建てられた物と言われている。瓦屋根つきの、木製の巨大な門が敷地の入り口にある。車がすれ違うことができそうなほどの間口は、大庄屋としての昔の繁栄を物語っているのだが、今では開放したままになっている。
敷地を土塀で囲んでいれば別だろうが、今は生垣を敷地境界に巡らしているだけなので、こんな立派な門を閉ざしても意味がないのだ。
門をくぐると、車が三十台くらいは停めることができるほど広々とした前庭がある。ここには大きな欅の木が一本聳え立っている。その横を抜けると、奥に入母屋作りの立派な母屋がある。
重厚な瓦葺屋根で大きく見えるが、実はすべて平屋建てなのだ。と言っても敷地が広いので、十分な余裕をもって間取りができている。
建物としては玄関から奥に向かって北東から南西へ長く伸びた形で、その長手の東南に面した側には広大な表庭がある。
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次回更新は10月24日(木)、22時の予定です。